「青い星通信社」は北棟と南棟という二つの建物を渡り廊下で連結した構造になっています。この二つの建物は新たに造られたものではなく、美深町の草原の真ん中に置き忘れられたように建っていた、いわば“廃屋”でした。
築何年の建物なのか、竣工時に登記がされていなかったこともあって、長らく正確にはわかりませんでした。美深町の市街を見下ろす山の頂上に、現在では使われていない通信施設が残っていますが、その保守管理にあたる警察官2世帯の官舎として建てられたといいますから、築後70年は過ぎているはずです。それだけの長い期間、あまつさえ住人が消えて空き家となった後も、道北の豪雪に押しつぶされることもなく、この双子の家屋が草原の中にひっそりと残ったのは、建物を支えた厚さ50㎝にも及ぶ重厚な壁の強度のためであったのだろうと思われます。
リフォーム作業の中で室内の解体を進めたところ、この建材を一つひとつ丁寧に積み上げた壁は、建物の外周だけでなく内部にまで複雑に入り込んで建物を支えていたことがわかってきました。風雪の痕跡を刻んだ外壁はグレーですが、建物の内部にあって表面をおおったモルタルの中で眠っていた石煉瓦は、青みを強く残しています。その謎めいた美しさ。優しいフォークロアの舞台にもなりそうな石煉瓦積みの建物を利用して造られたホテルはおそらく、初めて訪れたゲストの胸にもノスタルジーに似た感情を呼び覚ますことになるでしょう。